コラム道楽衆:「走談家・藤田の胸算用」 No.381

天保の浮世絵師、歌川広重はRUN&WALKに東海道53次 第3幕
〜「四日市 三重川」の絵は、旅商人が思わずランニングしていますよ〜
 広重53次、44番目の浮世絵が「四日市 三重川」です。画面には2人の旅人しか登場していません。1人は渡世人風の姿、川に架かった華奢な木橋を渡る最中で、あまりの風の強さに歩みを止めた、そんな感じで描かれています。その手前の土手をこちら側に向かって走り始めたのが、旅商人風の丸顔な小父さんです。かわいそうに強い風が商人の笠を吹き飛ばしてしまい、慌てて追いかけた、その瞬間ですね。

 で、この絵には納得のいかない点があります。まず、説明書きの「三重川」なる川は現在、四日市周辺に見あたりません。桑名から四日市に向かうと、順に員弁川、朝明川、米洗川、海蔵川、三滝川、鹿化川、天白川、雨池川、鈴鹿川と渡ります。三重川はありません。絵の感じからすると、そんな大きな川とは思えません。

 次が風の方向です。この地方は北西の方向からの風が強い、シベリアから日本海を渡って、敦賀〜湖北〜関ヶ原〜北伊勢と吹いてくる冷たい季節風です。絵の中の風は海から、つまり伊勢湾から吹く南東の風のように表現されています。まあ、東海道の他の絵にも、構図の関係から右左が逆さまになっているのがありますから、あまり目くじらを立てないでおきましょう。

 もう一つ、この構図は四日市でなくても良く、どこの宿場にも冬なら日常茶飯事で見られる風景です。ということは、当時の四日市の宿場は、よほど絵にならない宿場だったんでしょうか。周辺に名物の一つもなかったんでしょうか。ということで、広重の四日市は嫌々ながら走り始めた旅商人が気の毒なことです。

 <東京シティマラソンを実践する東京ロードランナーズクラブ>  藤田 俊英 (01/08/23)





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