コラム道楽衆:「走談家・藤田の胸算用」 No.379

天保の浮世絵師、歌川広重はRUN&WALKに東海道53次 第1幕
〜「平塚の宿」の絵は、プロフェッショナル・ランナー3人と高麗山と富士山〜
 今年の春先から建設オピニオン誌で「建設新生!〜街道往来・ソリューション紀行〜」なる連載を開始しています。それで毎月必ず、東海道の宿場の今昔の移り変わりを写真付きでレポートしています。このレポートに大いに参考になるのが、歌川広重の「東海道53次、天保4〜5年、保永堂版」の浮世絵55枚です。この絵、何回見ても厭きてきません。大した腕です。殊に、人物描写が好きです。

 夏だから、海に近い宿場をレポートしようと、平塚宿と大磯宿に行きました。この二つの宿場の距離は1里弱、真ん中当たりに花水川と高麗山が居座っています。広重の東海道は日本橋が1枚目、有名な大名行列の朝立ちの様子が描かれています。平塚は8枚目、宿場の様子でなく、平塚を出て花水川の手前で高麗山を望む構図になっています。そして江戸時代のプロフェッショナル・ランナーが3人、主役で登場しています。

 大磯の方から上半身裸に尻からげた1人の飛脚が、肩に担いだ荷物を両手で支えながら駆けています。そして、今しも大磯に向かう空駕籠を背負った2人の駕籠かきとすれ違おうとしています。その背景は、近い順に花水川にかかる太鼓橋、高麗山、丹沢山塊、富士山となっています。飛脚の姿を、松の木の幹が垂直にわずかばかり遮っていますから、よけいに飛脚の駆けるスピード感が伝わってきます。

 見事なのは3人の下肢のスレンダーな描き方です。いかにも臑自慢な稼業にふさわしい、足首のくびれ、膝の軽さ、大腿部のしまりを旨く描いています。よく見るとウォーカーが背景の遠方に二人、ポソっと立っています。二人とも傘を被って、花水川を覗いているようです。この絵を見ただけで、広重がランナーな絵描きさんであったことがわかりました。

 <東京シティマラソンを実践する東京ロードランナーズクラブ>  藤田 俊英 (01/08/21)





前のページへ戻る